火曜日, 4月 15, 2008

「複雑さにいどむ科学」多変量解析入門、ブルーバックス、1976、柳井晴夫、岩坪秀一共著、は、多変量解析のひとつ、重回帰分析にもかなりのページを割いている。第3章、因果関係をさぐるで、その意味を詳述している。

そして、『電子計算機のアウトプットとして出された数字を”解釈”する場面になって、それまでの客観的手続きにかわって、いわゆる”主観”が介入し、その結果の解釈がデータを飛び越えフィクションの世界に入り込むことがあるからである。』と前書きに書き、結果の解釈にはそれが何を語っているかを十分に留意しなければならない、としている。(160ページ)

全体の最後の部分で、『すでに述べたように、多変量解析の結果によって実質科学上の新しい知見得ることができるのは、極めてまれである。したがって、多変量解析の結果によって、その分野における一つの新しい仮説が生み出されれれば、それで十分であるという考え方も成立する。』と控えめに述べている。

末尾には、『複雑な人間行動を科学するための可能性に満ちた手法で、現代社会に見られるように人間自身がもたらした幾多の社会的不合理にメスをいれるための有力な科学的武器になることは間違いないし、将来もまた有効であるつづけるであろう。』と締めくくられている。


各章ごとに参考文献が多数上げられているが、出版後30年以上たっているので、幾分古さを今では感じるが、
折にふれて開いた入門書であった。ただ、末尾の文にもみられるように、社会科学向けの解説なので、自然科学系(医学をのぞく)の応用例などは入っていない。

それで、自然科学での事例を探したりしたが、最近は違うようだが、あまり事例が多くなく、そちらはまた独自でいろいろ学んだ。いまでは、エクセルや、他のパソコン用統計パッケージなどで、広範な他変量解析手法が普及し、至るところで応用されているであろう。

それで、自然科学系で、相関の高い2変数データを重回帰分析した際、偏回帰係数の意味の解釈に悩んだ時期が長くあった。社会科学系では、説明変数同士に相関が高ければ、他の変数を一定にした場合に(他の変数の影響を除去した場合)残りの1変数が、目的変数に与える影響を示す、などということにはならないというような意味のことが書いてある。

偏回帰係数がマイナスになる・・(本来プラスとなるべきと考えられる変数でも、という場合)

私の場合、そうはならなかったが、本来プラスと考えられる偏回帰係数がマイナスになる例について、ブルーバックスでもくわしく触れられている。こういう場合、抑制変数とよばれることがあるという。二変数での重回帰式の場合、どちらも目的変数と正の相関があるのに、重回帰分析をすると、どちらか一方の偏回帰係数がマイナスとなってしまう減少である。

彼らの事例では、大学入学後の学生の成績と、入学時における(受験時)各教科の得点との関係を調べた際に現れた。変数として、生物と化学の成績を選んだところ、化学を変数とする偏回帰係数がマイナスとなった。

『この場合、生物と化学の相関がかなり高い、という。それで、化学の成績が良いということは、化学ができたために生物もできたものとする推定を与え、生物独自の能力を低めに推定する。すなわち化学の成績が生物の成績を低めに推定する。』といっている。

これでは、生物や化学の固有の寄与の度合いなど測りようが無いではないか。予測としては使えても、原因の追究までは、とても及ばない。

それでは、一般に、2変数で重回帰分析をする際に、説明変数間に強い相関がある場合、各変数の偏回帰係数を独自に解釈することは、いつでも不可能なのであろうか?

否、である。ベクトル同士の角度が、2変数の相関がたかまると、狭まるので、推定そのものが不安定になりがちとはいうものの、もし、要因同士が独立であれば、データ自体が相関があったとしても、それぞれの偏回帰係数の意味を解釈できる場合がある。

査読者とのやりとりでも、そこが問題となったことがあった。たとえ話として、ある種の簡単な実験系を想定して、問答を行った。

たとえば、ある種の液体の比重を、調べたいとする。いろいろなビーカーに、任意の量の液体を注ぎ、計りで重さを計る。液体の量自体ももちろん数量を記録する。ビーカーは、ここでは直径のみ異なり、高さは一定とする。すると直径の大きいビーカーには、時として多くの液体が注がれえるし、反対に直径の小さいビーカーには、必然的に、比較的少量の液体がはいることになる。すると、ビーカーの直径をベクトルとして並べた列と、中の液体量を並べた列とはとうぜんながら、相関が比較的強く現れる。

ここで、重さを目的変数、直径と、液量とを説明変数として重回帰分析を行って、液量の偏回帰係数を見たとき、その値は、その液体の比重を表すはずである、という思考実験である。私は、演繹で考えたと思っているのだが。

それが功を奏したかどうかは定かではないが、それ以後、その点を問題にされなくなった。








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