「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年8月17日(金曜日)弐
通巻第3726号
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中国企業の北朝鮮鉱山開発投資は大失敗だったらしい
中国最大の3000万ドル投資がチャラになる可能性がでて、まさか泣き寝入り?
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中国に進出した日本企業がつぎから次への条件変更に悩まされ、あげくに撤退するとなると別のカネもかかる。馬鹿馬鹿しくてやってられない、二度と中国なんぞへ行くものか、という嘆き節をよく聞かされた。
直近の悪例が王子製紙だろう。
江蘇省政府が土地も提供する、中国の洋紙マーケットは巨大だと言われて進出を決めた。江蘇省南通の南南東郊外に広大に拡がる湿地帯を埋め立てて、大工場地帯を造成していた。実際に小生も現場を見学したが、揚子江にのぞむ船着き場もあり、近くには東レも進出しており、広い道路も整備されている。
パルプから洋紙一貫工場なら、立地条件は良好だろうと思った。五年か六年前である。
王子製紙はプロジェクト・チームを上海に派遣し、国際貿易センタービルに20人ほどが駐在、現地で中国語もならって最新鋭工場の工事を監督し、同時に中国各地に販売オフィスも起ち上げた。
突如、北京の中央政府から「待った」がかかり、工事は第一期がえんえんと延期された。目処は立たず、立ち往生。
ようやく上層部の政治的コネがついたのか、第弐期工事が始まり、予定より数年も遅れて製紙工場は完成した。
2012年7月29日、王子製紙を標的とする公害反対の突発的デモがおこり、しかも南通の隣町、啓東で市庁舎に暴徒が乱入し、パトカーを横転させ、手のつけられない暴動となった。
漁民が最初に騒いだ。海が汚染され、漁獲に響くから、王子製紙の排水パイプラインによる汚染水の海洋への垂れ流しを止めよという言いがかりである。
王子製紙は、工場から直接、揚子江へ排水せず、汚水を弐個所で処理しつつ、長い長い排水パイプを敷設して、東シナ海に面する啓東市から海に流す工事をしていたのだ。公害対策は万全だった。
はやくから汚水処理技術をみとめて、パイプライン建設を許可した啓東市当局が、突発的なデモに遭遇するや、この排水パイプライン敷設を不許可とするなど、約束不履行となってしまった。
王子製紙はすでに、この南通洋紙一貫工場プロジェクトに2300億円を投じている。
つぎつぎと最初の条件が変更になり、予定は数年も遅れ、いざ完成というタイミングでまたまた無理難題を突きつけられ、日本企業はほとほと嫌気を抱くわけだが、王子製紙としては社運をかけてきた大プロジェクトだけに、いまさら中止というわけにも行かないだろう。
結局、しぼり取られるだけ絞られ、大赤字のまま、メンツのために続行するか。或いは中国企業に売り逃げるか。もし撤退となれば、ほかの日本企業は中国から一斉に引き揚げという最悪のシナリオも考えられる。
▼北朝鮮は、この中国のあくどい遣り方を中国企業に適用したのだ
さてもさても北朝鮮が、中国のあくどい遣り方を中国企業に適用した。
経緯はこうである。
中国企業としては、対北朝鮮ビジネスが始まって以来、最大の投資として騒がれたプロジェクトは合弁による北朝鮮鉱山開発である。
30年の長期契約で安定的な鉄鉱石粉末を北朝鮮から中国へ輸出させると謳われた。
かの中国は遼寧省に本拠の「海域西洋集団」。北朝鮮の30度線に近い西側の鉱山を開発するために北朝鮮と合弁の「洋峰合管」というベンチャーを起ち上げた。
2011年までに3000万米ドルを投資し、年間50万トンの鉄鉱石粉末を生産、そのうちの75%が中国へ輸出されるという契約だった。
実際に現場では210棟の北朝鮮労働者用の社宅まで建設された。
この契約をつぎつぎと北朝鮮は条件をかえ、とんでもない条件を追加してきた。
労働賃金を上げよ、いやならば電気ガス水道の供給を止める。いや供給続行にはかくかくしかじかの「新税」を支払え。
あげくに労働者は真面目に労働しない、さぼるのは常識、労働者側のボスはやくざの親分でもあり、中国人スタッフが怒ると、逆襲される。
▼山賊の末裔はこうまでえげつない
ついに2012年3月2日、午前二時、20人の武装集団が中国人宿舎を襲い、いきなり「国外退去処分がでたので新義州から去れ」と通告した。
中国企業ですら想像を絶する条件の改竄改定、突然の法律変更。さすが山賊匪賊が政権をとった国である。
それでも中国は北朝鮮の幹部を中国へ呼んで交渉を続けた。
最初のプロジェクトの起ち上げに、高層部へ賄賂が必要と言われ、80万米ドルを渡した。これが2008年に追加で10万米ドル、中国人スタッフが平壌へ行くときは「ラップトップ型パソコンを持ってこい」「携帯電話をもってこい」と要求がエスカレートしていった。
北朝鮮幹部が訪中すると、ホテル代金どころか毎晩、高級売春婦を要求し、その売春費から追加の部屋代も支払わせた上、ホテルでは暴飲暴食の限りを尽くし、ひとりにつきお土産代金として20万米ドルを要求された。
そのあげく、年間三万トン以上は売れない、国家の戦略物資なので、その条件にはまだ付帯条件がついて、土地のレンタル料は一平米につき、1ユーロ。海水の使用量は1立方につき、0・14ユーロ。
この問題、ついに中国と北朝鮮の政治マターとなって火花が散る。今後の中国の交渉述は、日本政府ならびに企業にとって参考となるので、注目するべきである。
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◎ BOOKREVIEW ◆書評 ◇しょひょう ▼ブックレビュー ☆
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庶民の台所から姿勢の風俗までのぞいた往時の外交官
シナ通の軍人や満鉄調査部の分析より現場主義の記録が拓大記念事業として刊行
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荒井金造『荒井金造著作集 支那雑観』(拓殖大学)
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『荒井金造著作集』は往時の熱血の外交官にして、鋭敏な行動力と鋭い観察眼で、あの時代の中国の都会から辺境、奥地を視察し、そのシナ人のシナ人的生き方、その具体的な生態、食事作法、風俗習慣を克明に調べたルポルタージュのような随想が挿入されている。
滅法面白い。なかでも風俗点描が小説家の風景描写のような迫力があるのは、当時の淫売宿、売春楼、高級技楼、その客層の違いや中での作法、女たちの紀律、人生観、金銭感覚。その人生などにも事細かな記述がある。
北京の日本大使館にいる大使以下の職員は、この本を読んだ方が良い。
当時の政治家を概観するにも、毛沢東登場以前だが、張作霖などに会いにきたがる日本の政治かがごろごろ居た事実など、まさに今日と変わらない体たらくも刮目に値するページだ。
荒井は大正十五年にこう書き残しているのである。
「本邦人のシナに遊歴するものがますます多く、殊に近年は、学生までが長期の休暇を利用して、多岐にシナへ旅行するようになったのは、ともかくも結構な次第だ。せっかくシナまで出かけるのであるから、一つでも多くの事物を見聞したいという欲求は、強ちに無理とは言わぬが、ただし各遊歴者に通用の、面白くない一癖を見受ける。それは、何の縁故も用事もない人々が、むやみやたらと大官に面会したがることである。以前においては、洛陽にいけば呉凧浮に、張家口に行けば、憑玉翔に面会を求め今日では、奉天にいく者は張作霖に、南京へ行く者は孫傳芳に面会するのが、殆ど通例とさるる様だ。地方でも督弁とか省長とかいう大吏に面会したがり、失意引退の境遇にある段棋瑞とか梁士治というような人物に面会せむという者は少ない」
これはいまの日本の政治家もしかり。なんのようもないのに「訪中したから挨拶に」と旅先まで追いかけて江沢民にあった首相経験者も居たが、軽量級を相手するに、三流の江沢民と雖も疲れただろうなぁ。
この本は拓殖大学百周年記念事業の一環として限定出版であり、残念ながら一般読者には入手困難である。
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読者の声 どくしゃのこえ READER‘S OPINIONS 読者之声
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(読者の声1)以前、貴誌でもちょっと触れておられたが、先月21日に北京を襲った豪雨で犠牲者が77名あって、市長が突如辞任を申し出たというニュースがありましたが、『大紀元』などは死者は1000名、犠牲者の数を北京市当局はごまかしていると報道しています。真相はどうなのでしょう?
(JJヤング)
(宮崎正弘のコメント)77名というのは惨事にしてはへんてこな数字で、その後、79名に修正したようです。新幹線事故は死者40名、負傷200名余と発表され、これも「犠牲が少なすぎる」と疑問の声が多く、ネットやツィッターで飛び交っていました。
しかし犠牲数をごまかしても、それほどの政治的意味はなく。天安門事件と事故や天災は感覚が異なるでしょう。
四川省地震の犠牲者も、秘密軍事都市の被害模様は一切報じられませんでしたが、概算の犠牲者は公表されました。
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(読者の声2)李明博大統領竹島不法侵入に対し民主党政権は厳正な対策をとるとは言っている。
そのひとつとして国際司法裁判所へ提訴するといっているが、それも韓国が応じなければ何の実効性もない。そしてそれ以外に有効な対策がないという。
それならば経済制裁すればいいではないか。三橋貴明氏によれば対韓国輸出の対GDP比は1.12%、輸入が0.68%、貿易黒字が0.45%程度。
果たしてこれが領土問題という国益を害してまで守らなければならない「経済」なのでしょうか? と。
先ずサムソンの通信機器など韓国製品の不買運動を展開したらどうだろうか。
2年前の尖閣中国漁船衝突事件時中国はレアアースの輸出制限をして日本に経済圧力を掛けてきた。その結果日本は残念ながら狼狽した経緯もある。
外交上、有効な方策ない以上、次は韓国に対する経済制裁こそ一つの有効な対策ではないか。宮崎さんは如何お考えでしょうか。
(SF生、岡山)
(宮崎正弘のコメント)経済制裁は一国が発動してもほとんど効果がありません。これまでもアメリカの恣意で行われた制裁は、多国間の協力があり、しかも長きにわたって断固実行されれば、キューバ、旧ソ連と効き目もあった。しかし対ミャンマーへの経済制裁は中国を利し、対イラン制裁は中国、露西亜を利してしまった。
日本が一国で対韓国経済制裁をやると、一番得するのは中国と、三角貿易で稼げる香港あたりでしょうね。
韓国がいま一番いやがる効果は韓流ドラマを巧妙に番組からはずし、テレビで見られないようにすること、入国審査を厳しくすること、不法在留者の強制送還など、いろいろあります。
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(読者の声3)貴誌前号、香港の反日活動家たちの背後にある香港政界と財界の腹黒い動きの分析、なるほどと何度も膝を打つほどに感心させられました。
なにしろ、主要メディアではお目にかかれない分析ですから貴誌を欠かせません。徳間書店からシリーズででている西尾幹二先生の『GHQ焚書図書開封7』に、「(支那通の)宮崎さんなどの意見をなぜ聞かないのか」といった記述がありました。
さすがに中国通の貴誌ならでは、です。一言感想まで。
(YD生、新潟)
(編集部から)同様なご意見を多数いただきました。有り難うございます。
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樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 792回】
――古人曰く・・・「糞土の牆は?(ぬ)るべからず」
『官徳』(梁衡 北京聯合出版公司 2012年)
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「官」、つまり中央政府から地方政府までの幹部に「徳」を説き、実践させようというのだから、著者のような手合いを評して「愚ニアラザレバ誣ナリ」。
つまり、あんなにバカなことをしているヤツは本人が余程のバカか、さもなくば世間を舐め切っている、となる。
先ず著者は「幹部になる前に人としての自分を鍛えよ。政徳を第一とせよ。官徳は指導幹部の“立身出世”の根本であるだけでなく、“立国”の礎でもある」と大前提を掲げた後、ゴ高説のゴ開陳に及ぶ。著者の主張の概略を以下に示しておくと、
――官徳は社会の風紀を糾す指標であり、官徳こそが民徳を呼び覚まし、社会の風紀に大きな影響を与える。官徳が働かなければ、民徳は必ずや失われる。民徳を育てるためには、先ずは幹部が官徳を修めなければならない。官徳の質こそが社会文明の程度を決定し、官徳の水準こそが政権の興亡成敗を決定する。
地位の高い幹部が官徳を体現すれば、高きから低きに水が流れるように政治は遅滞なく行われるようになる。すべては公のため、民のためだ。誠実に身を処し、日々の業務を尊び、廉潔に努め、独立心を持ち、堅忍不抜の心を定め、謙虚に励み、広い心を養い、個人的な利害得失に対しては淡白であれ。幹部の政治的事績はその能力と徳によって定まるものだが、能力より徳が重要である。有徳無能なら少なくとも悪事を働くことはない。これに対し無徳有能な場合は、大々的に不正を重ねてしまうもの――
なにやら持って回った、取ってつけたような、判ったようで判らない主張が続くが、「中国共産党人は革命と建設の過程で、多くの道徳的模範を生み出した。たとえば偉大極まりない周恩来、真理を堅持した彭徳懐、一心を民衆に捧げた焦裕禄、直言居士の朱鎔基・・・彼らは新しい時代の官徳を体現している」
と記していることから判断すると、彼らが「官徳」を体現しているということらしい。
ということは、毛沢東の執事役に徹することで数々の政治闘争を生き延びること(周恩来)、バカ正直にも毛沢東本人に向かってアナタの政治はデタラメだから即刻中止すべきだと語りかけ失脚させられること(彭徳懐)、毛沢東の掲げる「為人民服務」を真っ正直に実践して疲労死すること(焦裕禄)、首相として最高権力者の江沢民への忠勤に励むこと(朱鎔基)が、「新しい時代の官徳」になるようだ。
ここで中華帝国以来の官吏の歴史を振り返ってみると、「貪官」と「清官」の2種類しかいない。
前者は権力を恃んでの悪徳の限りを尽くす者で、圧倒的多数がそうだ。これに対して極めて少数派が後者で権力を弄ぶことなく清廉を第一とする。
中央から地方まで無徳有能な幹部が揃っている現状を「貪官栄え、清官滅ぶ」の歴史的教訓に重ね合わせて考えれば、著者による「官徳」の絶叫はヌカにクギ、馬の耳に念仏でしかないだろう。
「今日の複雑な情況において、幹部の道徳修養を強化し、党の執政能力を高め、秩序ある経済発展を推進し、小康社会を築くことは、大政党にとって14億人民に対する歴史的使命であり、同時に世界に対する時代的責任でもある」。「誕生して90余年、8000万人超の党員を擁する大政党は、市場経済における新しい試練に真正面から対峙している」とか。この大仰な物言いは、なんとも虚しく空々しいばかりだ。
社会主義市場経済は、無徳有能で満身悪知恵の幹部にとって最高の培養器だった。
《QED
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(週末休刊のおしらせ)週末の8月18,19日は小誌休刊です
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