行進曲 「愛馬進軍歌」
国を出てから幾月ぞ 昨日陥したトーチカで
ともに死ぬ気でこの馬と 今日は仮寝の高いびき
攻めて進んだ山や河 馬よぐっすり眠れたか
とった手綱に血がかよう 明日の敵は手強いぞ
弾丸の雨降る濁流を 慰問袋のお守りを
お前たよりに乗り切って かけて戦うこの栗毛
任務果たしたあの時は ちりにまみれたヒゲ面に
泣いて秣を食わしたぞ なんでなつくか顔よせて
・・・ ・・・
と6番まで紹介されている。
戦火がとだえ、麦畑をいくと、傷ついて歩けない馬が、首をもたげ、悲しげにいななくと言う。手当てをしても無理な馬は、長く苦しませないために、拳銃で眉間を撃って絶命させるしか手がなかった、という。
どんな気持ちで引き金に指をかけたことだろうか。
東北地方を中心に軍馬として大陸に送られた頭数は、子供のころの記憶で8万余頭という。父の部下にも、東大の獣医学部出の士官が二名いたというが、馬にまつわる多くの話しを子供心にしみ込ませた。一頭たりとも戻ってこなかったらしい。わずかに生き残った馬は、中国の農民のもとで、使役されたわけだが、この歌にあるように主人が変わったからといって、兵隊になつくように中国人にはなつかなかった、ともいわれている。
西洋の犬は、主人がかわっても、同じように忠実だともいわれ、その点日本の犬は、二君にまみえずというタイプが多いらしい、とテレビでいわれていたが、馬でもそうなのかどうか。
行軍中、馬がピタリと止った。前方に地雷があるのを察知したのだという。そうとはしらぬ兵隊たちは三人がかりで無理やり引っ張り歩かせようとして、数歩進んで馬もろとも三名は爆死した、という話しも聞いた。
靖国神社は、馬や軍用犬、伝書バトまで祀っていると言う。さらに今年の毎日新聞では、終戦記念日頃に掲載されたが、戦争末期、内地で毒ガスの解毒用血清製造とか言う名目で、太らせた馬から血液を抜く勤労奉仕をさせられたという中学生だった人の回顧録があった。
可愛がってそだてた馬が、いついつ処理をすると知らされると1週間前から、中学生達の食欲は落ちたと言う。暴れる馬の足をしばり、血を抜く。ほとんどの血を取られた馬は開放されて、やっとの思いで立ち上がり、一声鳴いて絶命したという。もちろん、肉としても利用されたのだろう。
この曲の演奏を聞いて、昔の(昭和20年代、東京物語の頃の時代)運動会でも流れていたような記憶が。もちろん軍艦行進曲は定番であった。テレビなんかない時代。学校給食もはじまっていない、占領からやっと復帰したかどうかというような時代。うかつにもそうした社会の情勢の変化には気がつかなかったが。ただ、町中から米兵たちの姿が消えるのは早かった。その頃のバスは大半軍用車両の改装で、スポークに木製の馬車の車輪のようなバスもけっこう見かけた。馬のいななきのような感じがする部分が感慨ひとしおの曲。
ノモンハンの戦いでも、演習では脱落する馬が実戦となると必死に遅れまいと付いてきて、脱落する馬はいなかった、という。追いついてきて、味方の列に加わると、ヒヒーンと武者震いのように嘶いたという。
血を見るのが厭で、植物系へ進んだわけだが、そういう動機で進路を決めるのは案外多いのでは。もちろん、獣医学部や医学部へ行く人を特殊な人とは思わないが。動物愛、人間愛から発する進学熱が正当なものであるのは当然なのだが、高校の解剖でヒヨコを一羽手にしてからは、どうも苦手感が先行してしまう。
馬は人類の長い友達で、農耕、運搬、軍事で重要な役割を負ってきた。
昭和13年10月、日本競馬会から陸軍省と農林省に対して、国民の馬事思想普及のため「一般国民の心情に切実にアピールするにたる行進曲または俚謡の類い」の制作依頼が提出されたという。
戦時と平時を通じて常に愛唱する歌詞をつくることを目的として馬政課(陸軍省)と馬政局(農林省)が募集して集まった4万通の応募からえらばれた、という。
この「愛馬進軍歌」の歌詞募集を実施した当時の陸軍省馬政課長、栗林忠道大佐は、後の昭和15年の松竹映画『征戦愛馬譜 暁に祈る』で使用された軍歌「暁にいのる」の企画にもかかわった、という。
彼は、昭和20年3月に硫黄島総指揮官(最後は陸軍大将)として戦死を遂げるのであるが、その硫黄島の守備隊には、栗林大将と同じく騎兵科出身で、ロスアンゼルスオリンピックの馬術競技グランプリ障害飛越競技において金メダルを獲得した西竹一中佐(戦死で大佐に昇進)が、戦車第26連隊長として参加している。
米軍は、バロン西に投降をビラやマイクで執拗に呼びかけたらしいが、バロン西はとうとう味方に背を向けることはなく、戦死して「英霊」となった。
騎兵科出身のなかでも特に馬と縁の深いこの二人が太平洋の孤島に散ったことには不思議な巡り合わせを感じる、と結ばれている。
火曜日, 9月 11, 2007
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