月曜日, 10月 08, 2012

かってのアメリカが認めていた尖閣諸島の残存主権
2012年10月8日発売の産経新聞より転載


「海図に載らない灯台」

2003年2月3日発売の産経新聞より転載

石原慎太郎エッセイ「日本よ」
2003年2月3日発売の産経新聞より転載 
産経新聞社HP http://www.sankei.co.jp/
「海図に載らない灯台」
 『制度疲労をきたし極度なライン化に陥った日本の官僚機構の致命的欠点は、ものごとを複合的に捉えることが出来なく なったことだ。世界そのものが時間的空間的に狭小になったこの現代では、いかなるものごともさまざまな要因がからみ合って複合化しているか、官僚にはそれ がわからない。いや、わからないというより、ライン化に縛られてわかろうとしない。
 ヤスパースは、歴史とは複合的なものがさらにかさなり堆積して出来る重層構造を成しているといったが、歴史が過去の ものごとの堆積だとするなら、私たちが今生きているこの現実も明日には過去となるのであって、社会工学的に最も規制力のある行政が扱っている「今」は、す なわち歴史そのものなのだ。故にも、ものごとの重層性を理解せずに薄っぺらな認識で行われる行政が、正統な歴史を造り出せる訳がない。 そしてその官僚におぶさっているだけの現今の国政が、正統な歴史を形作れる訳がない。
 最近政府がその一部の土地を正式に借款したことで、それをシナ(中国)の政府が非難し、またぞろ焦点の当たりだした 尖閣諸島の領有権の問題だが、これら島々が佐藤内閣時代に行われた外交交渉によって、条約締結のもと正式に返還された日本固有の領土の一部であることは疑 いもない。しかしその後、周囲に海底油田の可能性が云 々されだしたら、シナの政府は突然に諸島のみならず沖縄そのものまでがシナの領土であると主張しだした。
 驚いた日本政府はハーグの国際裁判所に提訴すべく、返還の当事者であるアメリカ に証人としての協力を求めたが、狡猾なアメリカはシナへの将来の思惑もあって、い ったん返還した領土の正式の権利者がいずれであるかについては責任を持てぬと逃げてしまった。しかしこれは面妖かつ矛盾した話で、現にアメリカがその世界戦略に不可欠な戦略基地を沖縄に置いている限り、その一部として返還された尖閣諸島がシナ の国土であるとするなら、アメリカはシナの国土にその基地を置き、シナもまたそれを許容していることになる。
 このごたごたは返還以来続いていて、業を煮やしたかつての青嵐会議議員が挙金し、 学生有志を派遣して魚釣島に手製の灯台を建設したものだが、さらにその後の昭和五十三年、右翼結社『日本青年社』が発奮し多額の資金を投入して立派な灯台を建設し てくれた。その作業による過労のために隊員の幹部が死亡までしたが、そうした犠牲の上に出来上がった完璧な灯台は、なぜかいまだに正式に登録されず海図に記載されることがない。
 私は運輸大臣を退任した後灯台の完成を聞き、運輸省の水路部に紹介し専門家の調査を得、灯台としての不足部分を補填してもらいさらなる検査を受け正式な灯台とし ての資格を得た。しかしいざそれを海図に記載すべき段階で、なんと日本国外務省から「時期尚早故に保留すべき」との横やりが入り灯台は完全な灯台として作動していながら、海図の上に正式に記載されずにいる。
 外務省のいう「時期尚早故に保留すべき」といういいがかりは、尖閣の領土権を主張しているシナへの慮りに相違あるまい。これは奇怪、というよりも最早歴然とした国家への背信であって、自らがかつて省務として行った返還交渉とその成果への否定に他ならない。
 かつてあの尖閣諸島に跳ね上がりのシナ人が上陸し彼らの国旗を立てて騒ぎ、保安庁の船舶が出動して強制退去させた 折、時あたかも沖縄では三人の海兵隊員が日本人 の小学生の少女を暴行する事件が起こっていた。その渦中にワシントン・ポストの記者が当時のモンデール駐日大使に、尖閣の島で将来もっと激しい紛争が起 こった際に 日米安保は発動するのかと質したら、モンデールは言下にNOと答えた。私はこれは聞きすてならぬと思い本紙の「正論」欄でアメリカ大使のコメントを非難 し、もしそれがアメリカ側の正式な認識だとするなら日米安保の存在は全く無意味であり、我々とすればすみやかにこの条約を解消し、自国の防衛体制を根本か ら出直して作り上げなくてはなるまいと記した。
 ワシントンでも野党の共和党系の専門スタッフが私の論に同調して大使の発言は批判され、モンデールは間もなく解任され、その後なぜか一年半に渡ってアメリカ大使の日本への赴任はなかった。
 一昨年と昨年、横田問題のために訪米し現政府の要人たちと会談した折にも私は、 今日尖閣諸島の置かれたままの危うい状況について説明し、この島を我々が自国の領土としてまず自らの手で完璧に防衛するための、艦対艦、艦対空のミサイル を搭載し た高速の小型艦による艦隊の新しい海軍を編成し積極的に対処することへの賛否を問 うてみたが、それを危ぶむ者は一人としていはしなかった。さらにあの島々の防衛が紛争としてエスカレートした際の、安保にのっとったアメリカの協力を質し たが、それを否定する者もいはしなかった。中で海を知る何人かの相手は、作動し明かりを点 滅させている灯台が海図に正式に記載されていないのは、むしろ灯台が存在しない場合よりもある場合には危険なことではないかと正確に指摘もしてきた。
 今回の政府による尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島の賃借が何を目的としてかは知らぬが、この際同胞が自らの私財を 費やし努力して作り上げた、航行の安全という国籍を超えて人命を守るための灯台という施設を、政府は外務省の卑小な思惑は無視し、あの孤独な固有の領土に 対する国民の意思を代表して正式に登録すべきではないか。
 この国土に在る、国民の意思によって造形された万民のための財産を、外務省がもしこの期におよんでなおそれを認めまいとするなら、それは国家国民への背信、国益の喪失の黙認、すなわち売国以外の何ものでもあるまい。』
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http://www.sensenfukoku.net/mailmagazine/no8.html

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