火曜日, 4月 20, 2010


上記博士の書かれた書物をようやくほぼ全て読み終わった。日本語の題名は、4月10日に、『生き物たちは3/4が好き』として若干ふれたが、そこでは、生物の代謝率が体重の2/3乗に比例するか、あるいは3/4乗に比例するかといったエネルギーの使用形態に関する内容が中心だった。
(副題 多様な生物界を支配する単純な法則)

英文の方の原著では、IN THE BEAT OF A HEART であり、副題的な文字としては、LIFE, ENERGY, AND THE UNITY OF NATURE となっている。

数学者のしみずともこさんは、数学者が血管系のフラクタル特性を抽象的に論じ、エネルギー代謝が体重の2/3乗に比例し、3/4乗に比例するものも、生物界にはそこそこ存在するが、というように時代遅れ的な説のように取り上げてもいるかにみえる。

しみずともこさんは生物学者でないから、あまり立ち入った論議は割愛しているが、ホイットフィールド博士は、植物を対象に3/4乗則を大だい的に論じているエンキスト氏などと共同研究を楽しんだりしている科学ライターでもあるので、中味は大半が動物、植物の3/4乗則の話になっている。
http://d.hatena.ne.jp/naturalist2008/20091224/1261631708
今回、改めて注目したのは、上のサイトにも引用されているが、『日本人の研究としては唯一、依田恭二博士らの3/2乗則(植物サイズの対数と個体群密度の対数との関係の傾きが-3/2)がさらっと紹介されています。この法則は一時は隆盛を極めたものの1990年代には葬り去られ、ウェストやブラウンらの代謝理論の予測によれば4/3乗則(傾きが-4/3)となるそうです。しかし多くの法則はその具体的な値が重要というよりも問題提起(仮説提唱)が大事であって、その真偽は以後の検証作業に委ねられるというのは本書が繰り返し述べていることでもあるわけです。』というくだりだ。

第7章の木を見て森を知る、に出ている話題だ。もう少し具体的には、

『植物学者は、木々の密度(一定面積あたりの本数)が個体の大きさに応じて変わっていくことを「自己間引き」とよんでいる。(self-thinning)驚くほどではないが、木々のサイズと個体群密度の関係はべき乗則によってとてもうまく説明できる。問題は、「そのべき乗則はどのような形になるのか?個体の成長につれてその個体群密度はどれほど減少しなければならないか」である。』と問題提起し、日本で最初に発表された学説の紹介と、今日的評価を取り上げている。

『1963年、依田恭二率いる日本人の生態学者チームが、一定面積の植物のサイズの対数とその密度の対数との関係を表すグラフの傾きは-3/2になると結論した。コケから樹木まで幅広い植物を対象としたほかのいくつかの研究でも、同じ種どうしでも異なる種のあいだでもこのべき乗則をがなりたつことを裏づけるような結果がでた。
 自己間引き(当時は自然間引きと呼んでいたが)生態学の理論分野ではひときわ目立つ領域となり、植物学者は仮説をたてないという原則の例外となった。』

『このパターンは自然を厳密な数学で表現できる希有な例とされ、「その普遍性は植物生態学において唯一法則と呼ぶに値する」と言われた。』

『クライバーの規則と同じく、この数学的パターンはなぜそうなるかははっきりしなかった。最も支持された説は、ルーブナーの体表面積の法則のそれに似た幾何学的な議論に基づくものだ。・・・このふたつの式を組み合わせれば、植物の体積を-3/2乗すると、一定の区域で任意のサイズの植物が生育できる数と、生長にしたがってその数が減少する傾向を示せるはずだ。
しかし、やはり体表面積の法則のときと同様に、自己間引きの法則は科学の(数学のともいえる!?)厳しい検証に持ちこたえられなかった。』と私としてはよろこばしい記述が続いていた。

実は、学生時代から、生態学関連書物には、この記述であふれていて、しかも私はこのグループ系に属さない場所にずっといた。いつも、これらの記述に対しては、特にそのありがたみをとくとくと述べる先生方には、私はいろいろな難癖を付けたりしていた時代があった。ダイズでおこなった実験(1メートル四方の中に、100粒以下の密度でダイズを育てると、自己間引きは起きなかった、という。それ以上の密度にしてはじめて自己間引きのはっきりした傾向があらわれる、という。)

『1980年代半ばになって、依田のチームとそれに追従していた人々の、植物のサイズと個体群密度を対比させる方法にいくつかの誤りがあったことが明らかになった。そうした誤りのせいで、ふたつの特性の関係が実際より強いように見えていたのだ。データを再分析した結果、サイズと個体群密度を結びつけるはっきりしたパターンは認められなかった。1990年代半ばまでに、ほとんどの生態学者は自己間引きの研究に見切りをつけてしまった。』としており、

しかし、ウェストンとブラウンとエンキストは、自分たちの代謝モデル(3/4乗モデル)にその問題を解く新たな未椅子時を見いだした、とあり本書の中心的な中味となる。

この本の各章については、参考にした文献が10編内外ほど巻末にまとめてあげてあるので、どの文献が、依田らの仕事の検証をした文献なのか調べた。文章の指摘とタイトルから、これだと思った文献をまず一つ探した。

Hutchings, M. 1983. Ecology'a law in search of a theory. New Scientist. (June 16) 765-767

これはまだネット上では探しきっていないが、その過程で、文献検索サイトAltaVistaやGoogle Scholar などから、関連文献を拾いあげたら、テネシー大で1985年に学位を取得されたWellerという人の論文が目に留まった。印刷公表が1985年ということだから、その結果は、その前から周囲には分かっていたのではないか。
Weller, D. E. A mathemtical and statistical analysis of the -3/2 power rule of self-thinning in even
aged plant populations. Dissertation. The University of Tennessee, Knoxville, Tenessee, USA.

それまでの依田らの発表データは、コンピュータの利用が十分でない時代、ということもあるが、両対数グラフにデータをプロットして、その近似直線の傾きを、目で行っていたようで(推測だが)、厳密な統計処理をした結果ではなかったようだ。しかも、ダイズなどの扱いやすい資料にもとづく結果(ばらつきが少ない傾向)の解析パターンをフラクタルでの自己相似
のように、森林データでもそのパターンを当てはめたことが、いくつかの重要な点を見逃した結果となったようだと感じている。・・・

なお、この過程で、依田博士がすでに亡くなられていたことも判明した。
http://ci.nii.ac.jp/Detail/detail.do?LOCALID=ART0002057966&lang=ja
ご冥福をお祈りする。
なかのひと

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