日曜日, 7月 22, 2007

日本国憲法の問題点 第二章

前回に引き続き、小室博士の憲法談義を、・・・。

この章では、フランクリン、井上準之助、伊藤博文、ビスマルクが冒頭に紹介されている。「総理大臣なき国家・日本」である。

どんな無理難題であろうと、官僚は大臣のいうことを聞くべし、反逆はゆるされない、とある。
およそ、近代国家である以上、このルールは絶対にまもられなけれなならない。しかし、役人どもは
何かと、抵抗、反抗をつづけ、省利、省益あげくの果ては、私利私欲に精をだすのではないか?

さいきん、といってももう過去になるが、田中外相の時、役人達は、何かと抗弁し反抗した、らしい。
金正男を国外追放するときだけは、皆省外の人々も都合で聞いてしまったらしい。

井上準之助は、戦前官吏の給料を約1割減額すると言う大鉈をふるった。小泉改革ですらあれほどの騒ぎがおきたくらいだから推してしるべし。裁判官までがストをやる、とまで息捲いたくらいだった。ところが若槻内閣は微動だにしなかった。また、商工省の辞職脅迫に対しては、時の大臣桜内はただちに啖呵をきった。「よし、解った。それなら商工省を潰すだけのこと」と。ここまで上の覚悟がかたければ、役人が徒党を組んで抵抗しても負け犬の遠吠えにすぎず、一割カットは実施されてしまった、という。

憲法9条が外務省を堕落させた。

外務省では、次官よりも大使が上位なのだというが、松岡外相が日独伊三国同盟のとき、反対する大使や公使の首を片っ端からきったのに、田中外相は、次官の首どころか、課長の首をとることができなかった。

どこの欧米諸国でも、外務省というのは別格の役所という扱いを受ける。全権大使と言えば、自分の判断で他国に対して最後通牒を発することができる。国家元首に変わり、戦争を起こす権限を持たされている、という。

今の外務省はイギリスのような外交のプロというプライドは影もかたちもなくなった




大臣でもない代議士の使い走りとなり、その御機嫌取りに汲々としているのだから何をかいわんやである。

それもこれも、憲法9条により、平和国家になったつけといえば言い過ぎか!?とある。日清戦争で、最後通牒をつきつけた小村寿太郎特命全権公使のように、重責をおわされることもなく、ちやほやされ、機密費を与えられて、堕落しないわけがない、と。

しかし、今の憲法では、首相は大臣の首をきれないシステムになっており、小泉首相は田中外相の首をなかなか切れなかった、という。また、そもそも内閣総理大臣と言う規定すら、戦前の憲法ではなかった。

(それで、東条内閣が、天皇の意志を配慮して、戦争をやめる(中国から撤兵)としたくても、海軍が対米開戦は、(負けるとおもっていても)勝てますといえば、閣内不一致で、開戦しない理由がなくなってしまうようなことが起きたわけである。近衛内閣では、海軍は、陸軍に負けるわけにはいかず、今開戦すれば勝てると、苦しい胸のうちをあかしているので、天皇の御聖断で、陸軍撤兵をお願いするしか、和平の道をさぐる方策はない、として内大臣の木戸幸一に動いてもらおうとしたが、彼が保護した陸軍一派が、中国にいたので、それをしなかった、それで、東条内閣となったと、鳥井民氏は書いていた。)

戦犯になった広田弘毅氏が首相になったとき、かれは迂闊にも、現役武官制を復活してしまった、という。それで、陸軍による政局支配が復活し、大正デモクラシーの流れはとまった、という。憲法そのものは少しも改正されなくても、普通の法律施行をかえただけで、大改正、大改悪以上の変化が起きてしまった。

法律だけでなく、ちょっとした慣行の変化だけで、憲法の機能に大きな変化を与えると言う。それが陸軍大臣を三長官会議の推薦で決めるという慣行だった。三長官とは、参謀総長、陸軍大臣、教育総監で、この三者が一致した推薦でなければ、次期陸軍大臣はきまらない。決まらなければ、内閣は倒れる。

この制度がなければ、昭和史は変わっていたろうと小室博士は見る。すると、広田弘毅は戦犯となって、絞首刑になったわけだが、これには感情的には異論があろうが、法理的にみれば、いかにも指摘通り迂闊だったわけで、その責任はまぬかれないだろう。

日本の憲法は首相の不在をゆるしている。

戦前の日本には、(憲法上)内閣総理大臣はいなかった。現行憲法ではすこしまともで、規定はあるが、しかし、総理大臣の不在が1ヶ月もあった時期があるように、総理大臣の空位を許している。ということは、現行総理大臣は、戦前の総理大臣と50歩100歩ではないかと指摘する。

維新の嵐をくぐり抜けた元老が消え、高橋、井上が暗殺され、日本の政治家が暗殺の恐怖にすくみ上がったときに、明治憲法もデモクラシーも本当に死んだ、ともいえる。

田中角栄を最後に、本当の政治家らしい政治家は今や一人もいない。その問題もまた、憲法と大いに関係がある、という指摘で二章は終わっている。

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